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テングサ生産量解析
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04 2023/07/10 黒潮大蛇行とテングサ生産量について 

04 2023/07/10 黒潮大蛇行とテングサ生産量について

 黒潮は東シナ海を北上して日本の南岸に沿って東に流れていく海流である。
 この黒潮には大きく分けて2種類の流路パターンがある。一つは本州南方の東経136度〜140度で北緯32度以南まで大きく蛇行する「大蛇行流路」、他方は四国・本州南岸に沿って流れる「非大蛇行流路」と呼ばれる流路である(※1,※2)。
 現在、黒潮は2017年8月から大蛇行しており、1965年以降過去最長となっている。蛇行した黒潮は本州南岸との間に下層の冷たい水を湧き上がらせる。この冷水塊は漁場の位置に影響を与える為、漁業関係者はその動向に注目している。
 テングサは寒天やトコロテンの原料となる重要な水産資源であるが、その生産量も黒潮大蛇行の影響を受けていると考えられている。特に「和歌山県・南西部」〜「高知県・南東部」の海域では減産が顕著で有り(図1,※3)、黒潮大蛇行とテングサ生産量の関連を考える上で注目すべき海域と考える。
 黒潮大蛇行は日々変化しているが、潮岬南方で南下していくことが一つの基準となっている(図2,※1,※2)。この位置での南下は、「和歌山県・南西部」〜「高知県・南東部」海域で潮流を減少させ、結果的に冷水塊を発生させている可能性がある(図2)。テングサ生産量が顕著に減少している海域(「和歌山県・南西部」〜「高知県・南東部」)で、冷水塊が発生している可能性があることは、黒潮大蛇行がテングサ生育量に影響を与えているという良い事例と考える。
 テングサ生産量と黒潮の関係については、静岡県水産試験場伊豆分場研究報告(※4)でも報告されている。本報告は黒潮流軸と伊豆半島までの距離について言及したものであり、黒潮大蛇行とは若干性質が異なる。しかし、黒潮流軸が伊豆半島から離れた時、テングサ生産量が減産すると興味深い報告をしている。一方で、黒潮流軸が伊豆半島から離れた時、海水温が高くなるとも報告しており、冷水塊の発生については言及されていなかった。
 テングサ生産量と黒潮大蛇行の関連性を立証するには更なる研究が必要となる。本稿を読まれた方が海洋環境と生産量の関係に興味を持ち、水産資源保護・増産の一環として今後の研究課題として頂ければ幸いである。
 最後に日刊水産経済新聞に黒潮の大蛇行について詳細な記事と模式図が掲載された。非常に興味深い記事であった為、こちらも掲載させて頂く(※5)。

(報告/社長 森田尚宏)
 

参考:

※1:気象庁HP
  https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/knowledge/kuroshio.html

※2:吉田隆・下道保直・林王弘道・横内克巳・秋山秀樹,
  2006:黒潮の流路情報をもとに黒潮大蛇行を判定する基準.海の研究,15,499-507.

※3:森田商店HP
  https://www.tengusa.jp/reports/kaiseki_2023_03.html#2023_03

※4:山田信夫
  1968:寒天原藻テングサ類の施肥に関する研究.静岡県水産試験場伊豆分場研究報告,32,6-9.

※5:黒潮の大蛇行・まもなく6年(日刊水産経済新聞;2023年6月7日)

※6:気象庁HP
  https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/current_HQ.html?areano=2


図1:テングサの産地

「和歌山県・南部」「徳島県・南部」「高知県・南東部」は減産傾向である。
(「近年のテングサ概況(西日本);森田商店HP」(※3)より)


図2:2023年4月1日の海流(※6)

 色:流れの速さを示す(1ノット≒0.5/m/s;ktと記載)。
 矢印:海流の向きを示す。0.2kt未満は記載無し。


 《黒潮について(※1)》
 黒潮は東シナ海を北上して九州と奄美大島の間のトカラ海峡から太平洋に入り、日本の南岸に沿って流れ、房総半島沖を東に流れる海流である。
 この黒潮には大きく分けて2種類の安定した流路パターンがある。一つは本州南方の東経136度〜140度で北緯32度以南まで大きく蛇行する「大蛇行流路」、他方は四国・本州南岸に沿って流れる「非大蛇行流路」と呼ばれる流路である。「非大蛇行流路」は東海沖をほぼ東に直進し八丈島の北を通過する「非大蛇行接岸流路」と伊豆諸島近海で南に小さく蛇行して八丈島の南を通過する「非大蛇行離岸流路」に分けられる。
 黒潮が大蛇行流路となって流れている状態を黒潮大蛇行と呼んでおり、気象庁では黒潮大蛇行の判定に以下の二つの条件を用いている。
@ 潮岬で黒潮が安定して離岸していること。
A 東海沖(東経136度〜140度)での流路の最南下点が北緯32度より南に位置していること。
 この基準によれば1965年以降では黒潮大蛇行は6回発生している(表1)。最近では2017年8月発生しており、継続期間は1965年以降では過去最長となっている。
 黒潮の流路変動は漁場の位置に影響を与える。特に黒潮大蛇行が発生すると蛇行した黒潮と本州南岸の間に下層の冷たい水が湧き上がり、冷水塊が発生し、漁場の位置に影響を与える。


表1:1965年移行の黒潮大蛇行の発生期間と継続月数(2022年4月時点)

発生期間 継続月数
1975.8〜1980.3 56ヶ月
1981.11〜1984.5 31ヶ月
1986.12〜1988.7 20ヶ月
1989.12〜1990.12 13ヶ月
2004.7〜2005.8 14ヶ月
2017.8〜 継続中


※5:黒潮の大蛇行・まもなく6年(日刊水産経済新聞;2023年6月7日)

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